「製造コストが安く、若い労働力が豊富なベトナムに進出したい」——中国プラスワン戦略の筆頭候補として、日本企業のベトナム進出は2020年代に入ってさらに加速している。ただし、ベトナムは外資規制・許可手続きの複雑さが課題であり、事前準備なしに踏み込むと想定外のコストと時間がかかる。本記事では2026年最新情報をもとに、法人設立から就労ビザ・ランニングコストまで一気に解説する。

ベトナム進出が選ばれる理由

①人件費の優位性:最低賃金は地域により月280〜460万VND(約1.7万〜2.8万円)。中国の約3分の1〜5分の1のコストで製造ラインを維持できる。

②若く豊富な労働力:平均年齢約32歳、人口約1億人。理工系大学卒業者も年間10万人超を輩出しており、IT・電子部品など技術系業種への適性が高い。

③輸出・貿易ハブとしての地位:CPTPP・EVFTA(EU・ベトナム自由貿易協定)などのFTAを活用し、製造した製品をEUや日本へ低関税で輸出できる。サプライチェーン再編の文脈でも注目度が高い。

④経済成長率の安定:2023〜2025年のGDP成長率は年5〜7%台を維持。中産階級の拡大に伴い国内消費市場としての魅力も増している。

⑤親日感情の強さ:日本語学習者数がアジア2位。日系企業の採用活動がしやすく、管理職候補の確保も比較的容易だ。

ベトナムの主な法人形態

形態 特徴 外資比率 おすすめ対象
有限責任会社(LLC) 最も一般的。社員2〜50名 最大100%(業種による) 中小企業・製造・サービス
株式会社(JSC) 株主3名以上。上場も可能 最大100% 大規模投資・将来上場志向
駐在員事務所 営業活動不可。市場調査のみ 100%外資可 事前調査・情報収集
支店 一部業種のみ認可。親会社無限責任 業種制限あり 銀行・保険など特定業種

製造・IT・サービス業の場合は外資100%の有限責任会社(LLC)が最も選ばれる形態だ。業種によっては外資比率の上限や合弁義務があるため、投資登録証明書(IRC)の取得前に確認が必要。

法人設立の手順と費用(2026年版)

STEP 1:投資登録証明書(IRC)の取得(15〜30日)

ベトナム投資計画局(DPI)または省レベルの管理委員会へ申請。外資企業はまずIRCが必要。審査期間は通常15日(製造業は30〜45日かかることも)。必要書類:事業計画書・親会社の設立証明・財務諸表・取締役パスポートのコピー等。

STEP 2:企業登録証明書(ERC)の取得(3〜5日)

IRCを取得後、DPIに企業登録を申請。会社名・住所・事業目的・資本金を登録。ERCが発行されて初めて「法人」として認められる。

STEP 3:税務登録・銀行口座開設(1〜2週間)

税務局への登録、法人印鑑の作成、ベトナム国内銀行(Vietcombank・MB Bank等)への法人口座開設を行う。

法人設立にかかる費用目安

費用項目 金額目安(USD) 金額目安(円)
IRC・ERC申請費用(政府手数料) 約100〜300 USD 約1.5万〜4.5万円
設立代行手数料(法律事務所・代行会社) 1,500〜4,000 USD 約22万〜60万円
翻訳・公証費用 300〜800 USD 約4.5万〜12万円
登録住所(バーチャルオフィス、年間) 500〜1,500 USD/年 約7.5万〜22万円/年
設立費用合計目安 2,500〜7,000 USD 約37万〜105万円

※1USD≒150円で計算(2026年7月時点目安)。シンガポール・マレーシアより手続きが多く設立期間も長い傾向がある。

就労ビザ(労働許可証)の取得

ベトナムで外国人が合法的に働くには労働許可証(Work Permit)の取得が必要だ。ビザとは別の手続きである点に注意。

労働許可証の主な要件

①大学卒業以上の学歴証明(公証・翻訳が必要)②3年以上の職務経験証明③健康診断書(ベトナム指定機関での受診)④犯罪歴証明書(日本の法務局・警察発行のもの、公証・翻訳が必要)。有効期間は最長2年(更新可能)。

ビザの種類

労働目的の場合はLDビザ(労働ビザ)を申請。労働許可証の取得を前提として発給される。企業内転勤者(マネージャー・専門家)は一部免除制度あり(事前届出が必要)。

ベトナム進出の注意点・よくある落とし穴

①手続きの複雑さと長期化:IRCの審査が想定より長引くケースが多い。特に製造業・不動産・教育など「条件付き業種」は追加審査が入る。余裕をもったスケジュールを組むこと。

②電気代・インフラコストの上昇:2023〜2024年にかけてベトナムの電力料金が2度引き上げられた。製造業にとってはコスト増要因であり、省エネ設備の導入が課題になっている。

③人材定着率の低さ:ホーチミン・ハノイ周辺は競合する外資企業が多く、優秀な人材の引き抜き合戦が激化。離職率が高い業種では採用コストが積み上がりやすい。

④土地・建物の賃貸制約:外資企業はベトナムで土地を所有できない。土地使用権(LUR)の賃借という形になるため、工場用地の契約は法律専門家を通じた精査が必須。

ベトナム進出のランニングコスト目安

コスト項目 月額目安(USD) 月額目安(円)
オフィス賃料(ホーチミン市内・10坪) 1,000〜2,500 USD 約15万〜37万円
日本人駐在員(総支給) 3,000〜6,000 USD 約45万〜90万円
現地スタッフ(事務職) 400〜700 USD 約6万〜10万円
会計・税務(外注) 200〜500 USD 約3万〜7.5万円
最低月額コスト目安(小規模拠点) 約5,000 USD〜 約75万円/月〜

まとめ:ベトナムはASEAN最有力の製造・輸出拠点

ベトナムへの進出は、低コストの製造拠点確保と急成長する国内消費市場への参入という二面性を持つ。FTAを活用した輸出競争力も高く、中国代替の生産拠点として日本企業のニーズに応えられる数少ない国の一つだ。IRC取得の長期化・電気代上昇・人材定着率の低さなど課題もあるが、現地法律事務所や日系コンサルタントと連携すれば多くは回避できる。アジア生産拠点の選定でベトナムは今後も最有力候補であり続けるだろう。

ベトナム進出のメリットと成功のポイント

手続きと費用を押さえたうえで、そもそもなぜベトナムが選ばれるのか、進出を成功させる条件を整理します。

ベトナム進出のメリット——なぜ今ベトナムなのか?

  • 若い人口と旺盛な内需:人口約9,800万人・平均年齢31歳。中間層が急速に拡大中
  • 製造コストの競争力:最低賃金は月2万5,000円前後(日本の約1/15)
  • チャイナプラスワンの受け皿:中国から移転する製造業の最有力候補
  • 高い識字率・技術習得力:識字率97%・勤勉で技術習得が早い労働力
  • 親日感情:日本への好感度が高くJETROの日本企業支援も充実

ベトナム会社設立の手順(2026年版)

ステップ 内容 所要期間 費用目安
①事前調査 JETROへの相談・現地視察・業種ライセンス確認 1〜3ヶ月 渡航費・通訳代:30〜80万円
②法人形態の選択 有限責任会社(LLC)または株式会社を選択(外資100%可)
③投資登録証明書の取得 地域の省・市計画投資局へ申請 15〜30日
④企業登録証明書の取得 事業登録(ERC)を取得 3〜5日
⑤法人設立費用の納付 資本金の払込・銀行口座開設 1〜2週間 資本金:最低1億円程度推奨
⑥事務所・工場の確保 工業団地または市内オフィスを賃借 1〜3ヶ月 工業団地:月30〜80万円
⑦人材採用・業務開始 現地採用・日本人駐在員派遣 2〜4ヶ月 採用費:50〜150万円

ベトナム進出の初期費用——リアルな数字

よく「ベトナム進出は安い」と言われますが、実際には相当の初期投資が必要です。以下はスモールスタート(事務所型)と製造拠点型それぞれの目安です。

項目 事務所型(営業・IT) 製造拠点型(工場)
設立費用(弁護士・コンサル) 50〜100万円 100〜200万円
事務所・工場賃料(年) 120〜300万円 400〜1,200万円
設備投資 50〜150万円 1,000〜5,000万円
人件費(年・10名規模) 400〜600万円 500〜1,000万円
日本人駐在員コスト(年) 600〜1,000万円 600〜1,000万円
初年度合計目安 1,200〜2,000万円 3,000〜1億円以上

ベトナム進出の主なリスクと対策

  • 人件費の上昇:最低賃金は毎年5〜7%上昇中。長期コスト計画に織り込む必要あり
  • 優秀人材の引き抜き:日系・欧米系・中国系企業が優秀なベトナム人材を奪い合う競争が激化
  • 現地パートナートラブル:合弁事業でのパートナーとの認識齟齬が最大リスク。契約書は日越両言語で作成必須
  • 規制変更リスク:外資規制・税制が頻繁に変更される。顧問弁護士は必須
  • 為替リスク:ドン安が続く場合、円換算での収益が目減りする可能性

進出を成功させる4つのポイント

  1. JETROを最大限活用する:ハノイ・ホーチミン事務所が日本企業向けに無料相談・現地情報を提供。まずここから始めるのが鉄則
  2. 信頼できる現地弁護士を早期に確保:法人設立・労務・契約書作成まで一括で依頼できる現地事務所を探す
  3. 工業団地の優遇制度を活用:特定の工業団地では法人税優遇(最大10年間4%〜)・土地使用料免除などの恩典あり
  4. 日本語話者の現地採用を最優先:管理職に日本語能力のある現地人材がいれば、日本人駐在員のコストを大幅に削減できる
  5. ベトナム進出のメリットと成功のポイント

🌏 この記事は「アジア進出完全ガイド2026|11カ国の費用・手続き・ビザ要件を徹底比較」の一部です。他の国のガイドもあわせてご覧ください。

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By 森田久助

貿易会社に勤務し、中国駐在歴10年。現地での実務経験をもとに、アジア各国のビジネス・経済動向を発信しています。※森田久助は筆名です。